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福島地方裁判所平支部 昭和30年(ワ)56号 判決 1956年11月08日

原告

鈴木栄

外三名

被告

鈴木正美

外一名

主文

被告等は連帯して原告鈴木栄に対し金五十七万七千八百八十円およびこれに対する昭和三十年六月十一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払うべし。

原告鈴木栄のその余の請求および原告鈴木泰子、同鈴木武夫、同鈴木タカヨの請求はこれを棄却する。

訴訟費用のうち原告鈴木栄と被告両名間に生じた部分はこれを四分しその三を被告等の連帯負担としその一を原告鈴木栄の負担とし、原告鈴木武夫、同鈴木タカヨ、同鈴木泰子と被告両名間に生じた部分は同原告等の負担とする。

事実

(省略)

理由

原告栄の請求について、原告栄が原告武夫、同タカヨの二男で原告泰子は原告栄の妻であること、昭和二十九年四月五日松ケ岡公園で原告栄と被告両名が些細のことから喧嘩をしたことがありこれに関し被告両名が第一審で、懲役一年六月三年間執行猶予の判決をうけ控訴したことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第二十四、二十五、二十六号証、証人竹林貞吉の尋問の結果および同証人の尋問の結果により成立を認められる甲第三号証の一、二並に原告武夫の尋問の結果を総合すると被告両名は飲酒のうえ昭和二十九年四月五日午後八時四十分ごろ平市字薬王寺台松ケ岡公園の第一分園西側聖ケ池附近において原告栄と些細のことから口論となり一旦仲直りして帰りかけた原告栄を呼び戻し同所で同人を押倒し同人が起き上らんとするや被告両名は共同してこれを突き倒しそれを二三回繰り返えしたすえ同人をして同所西側の崖から約十米下方の石橋附近に転落せしめ因て同人に頸髄損傷(下半身麻痺)等の傷害を与え(右傷害につき被告両名は福島地方裁判所平支部の昭和三十年四月十五日の第一審判決により前示のとおり懲役一年六月三年間執行猶予の判決をうけ上訴し、昭和三十年七月二十日仙台高等裁判所において控訴棄却、昭和三十一年二月二十一日最高裁判所において上告棄却となつた)。同人は以来医師により治療中なるも右傷害により上下肢の麻痺を来たし膀胱直腸障害あり常に複雑なる介護を要する状態にあり将来下半身麻痺恢復の見込がなく受傷後入院などして複雑な治療介護をなし相当の支出をしていることが明らかで(乙第二、四、五、六、七号証中右認定に反する部分は措信しない)、従つて同人は寝たまゝで自ら身体を動かすことすら不能で身の廻りのすべては他人の手をわずらわし複雑な治療を要し且つこの状態はいつまで続くものか予想不能で全く生ける屍と言つても過言でないことを認めるに十分で原告栄の精神上の苦痛は極めて大なるものがあると言うべく、被告両名は前記加害行爲によつて原告栄の蒙つた精神上の苦痛についての相当の慰藉料と右傷害に基く損害を連帯して支払うべき義務があるものとする。

よつて先づ損害額について按ずるに原告武夫の尋問の結果の一部に、同人の尋問の結果により成立を認められる甲第四号証の一ないし七第五号証の一ないし四第六号証の一、二第七号証の一、二第八号証の十二第九号証の一ないし四第十号証の一ないし八第十一号証の一、二第十二号証第十三号証の一ないし五第十四号証第十五号証の一ないし四第十六号証の一ないし四第十七号証の一、二第十八号証を総合すると原告栄は右受傷の治療に関して(1)入院料処置料(昭和二十九年四月五日より同年六月十日までの分)として合計七万五千七百七十円(甲五の一・五の二・七の二・九の二・九の三・九の四)(2)薬品代(昭和二十九年六月十五日より同年十一月三十日までの支払の分)として合計四万三千六百五十円(甲八の一・十の三、四、七、八・十一の二・十三の一、五・十五の三、四・十七の一)、(3)附添婦料(昭和二十九年五月二十五日より同年八月十二日までの分)として金二万八千八百五十円(甲十二)、(4)日用物品代(昭和二十九年四月六日より昭和三十年二月二十八日の間において支払つた分)として合計一万一千六十五円(甲四の一、二、三、四、五、六、七・十の一、二、六・十三の三、四・十八)、(5)燃料費(木炭代の昭和二十九年六月十七日から同年十二月一日までに支払の分)として合計六千百二十円(甲十の五・十三の二・十五の一・十七の二)、(6)氷、茶菓子(リンゴ)代(昭和二十九年五月一日から同年五月三十一日までに支払の分)として合計三千八百二十五円(甲六の一、二・八の二)、(7)電気マツサージ料(昭和二十九年七月三十一日より同年十一月十九日までに支払の分)として合計八千六百円(甲十一の一・十四・十五の二・十六の一、二、三、四)、右総合計十七万七千八百八十円の支払をしたことが認められる(原告武夫の尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない)、これは右受傷による原告栄の損害と云えるものとする。

次に慰藉料の額について按ずるに成立に争いのない甲第一、二十九、三十号証、同乙第二、四号証に原告武夫の尋問の結果を総合すると原告栄は本件受傷当時満二十六年の青年で農業の傍ら雑貨商を営む原告武夫の跡取りに予定されていたものであり、一方被告両名は共に昭和七年生れで各その父親は相当の田畑を所有し被告等は自家農業の傍ら附近の煉瓦工場で働いているものであるが本件発生後見舞は勿論その他の慰藉の方法を全く採らずその誠意のないことが認められ、右の事実と前記原告栄の傷害の部位、程度、その他諸般の事情を参酌してその慰藉料を金四十万円が相当であると認める。

以上により被告両名は連帯して原告栄に対し前示傷害による(イ)損害として金十七万七千八百八十円、(ロ)慰藉料として金四十万円、およびこれ等に対する本件訴状が被告等に送達された日の翌日であること本件記録に徴し明白な昭和三十年六月十一日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の交払をする義務がある。

よつて原告栄の本訴請求は右限度においてこれを認容しその余は失当としてこれを棄却する。

なお被告等は右原告栄の受傷当時原告栄は酩酊して居り同人にも過失があつたと主張するにつき按ずるに被告等提出の各証拠により当時原告栄が多少酒を飲んでいたことは認められるけれども前示認定の受傷前後の情況に徴して原告栄の過失があつたとは認められないから右主張は採用しない。

原告泰子、同武夫、同タカヨの請求について、前記認定のように原告栄は被告等の加害行為により傷害をうけたことが明らかであり、これにより原告武夫、同タカヨ、同泰子がその父母又は配偶者として多大の精神上の苦痛をうけたことは原告提出の証拠等によりこれを認められるけれども、民法第七百十一条の規定によれば他人の生命を害したものは被害者の父母配偶者及び子に対しては財産権を害しない場合においても損害賠償をなすことを要するとあつて文理上単に生命権に対する侵害があつた場合に限り被害者以外の者に対し慰藉料請求を認めた趣旨と解するを相当とするから本件のごとく身体傷害を原因とするものにあつては原告武夫、同タカヨ、同泰子等が仮令精神上多大の苦痛を感じたとしてもこれがために慰藉料を請求出来ないものとし、原告武夫、同タカヨ、同泰子の本訴請求は失当として棄却する。

なお訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平岡省平)

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